エッセイの神様・向田邦子の「父の詫び状」を読み返す。

もう何十年も前の単行本、ボロボロです。

先ごろお亡くなりになった小林亞聖さん。彼の名演技が光った「寺内貫太郎一家」の脚本を手掛けられたのが向田邦子女史です。私の記憶に残っている「寺内貫太郎一家」の名場面は、樹木希林さん(当時は悠木千帆さん)が沢田研二さんのポスターの前で「ジュリ~~」ともだえるシーン。亞聖お父さんは、私にはおっかない存在でした。

そのお父さんのモデルとなった女史の父親像が、この「父の詫び状」には溢れています。癇癪持ちで見栄っ張りな親父様のことを実は愛してやまなかったことが、この珠玉の随筆集から切々と伝わってきます。

文庫本の「父の詫び状」

今まで数多くのエッセイを読んできましたが、とにかく向田女史の筆は絶品です。彼女の、特に処女作であるこの「父の詫び状」を超える随筆には、まだお目にかかれていません。

単行本の背表紙があまりに無残な姿で、探しても見つからず、文庫を買ってしまいました。

名調子の絶妙な表現を《もう一度読み返したい!》と思い立った時、ボロボロの単行本がそれだと気付くことができず、我慢が切れて文庫本を買ってしまったのですが、何度読んでも「ウマイなあああ」と唸ってしまいます。

後に小説家となり、直木賞も受賞されましたが、向田邦子女史の真骨頂は、なんと言ってもエッセイです。お美しい女史のそそっかしさを自虐的に表現した箇所は、何度読んでも笑ってしまいます。

今後も家庭用と外出用に2冊を持っておこうか、それとも狭い我が家の書籍棚を憂慮して、文庫本を手放すか。小市民の悩みは、ささやかながら、本人にとっては結構深刻なんです。