一気読み必至 罪の轍 奥田英朗

犯罪ミステリーの最高峰 罪の轍 奥田英朗著

群像劇にしてサスペンスでもあり警察小説の面も。奥田英朗氏の筆は自由自在に読者を翻弄し、魅了します。

宇野寛治をメイン主人公と呼ぶべきか、その特異なキャラクターは時々「ぷっ」とか「ぶっ」とか吹き出してしまう、ぶっ飛んだ行動をし、シリアスなストーリーなのに、思わず笑わずにはいられなくなります。

直木賞を受賞した氏の「空中ブランコ」は以前紹介しており、ひたすら笑えるギャグ的な作品でしたが、2009年に吉川栄治文学賞をとった「オリンピックの身代金」はうってかわって、真面目な話でした。

氏は1964年の東京オリンピックに強い思い入れがあるのでしょうか。その「オリンピックの身代金」もこの「罪の轍」も時代背景は昭和30年代の終わりに集中し、タバコにまみれ、ヒロポンという言葉が飛び出し、物証は指紋。DNAという言葉は出てきません。

もう一人の主人公と言える、刑事・落合昌夫は大学出の、その当時としてはニュータイプ的な存在で、彼の口からは心理学用語も飛び出します。宇野寛治の生い立ちに関わってくるのですが、離人症とか多重人格といった精神疾患を表す言葉が、果たしてあの時代に既に研究されていたのか、違う意味で興味を持ちました。

読書の醍醐味は、登場人物に感情移入し、一緒にハラハラどきどきし、悩み落ち込み、勇気をもらったりするものですが、追われる者にも追う者にも深く肩入れしてしまい、分厚い本なのに一気読みでした。

他の主要な登場人物も丁寧に描かれており、いずれも愛すべきキャラクターです。警察のメンツがかかった大一番など、フィクションだからこそ著者も想像の翼を大いに遊ばせた節が見えますが、現代のネット社会への遠回しな皮肉も感じられ、懐の深さに唸らされます。

全てのジャンルを超越する感動がここにある、と帯にありますが、1冊で山ほど楽しめる、ワンダーランド犯罪小説。自信をもっておすすめします。