20代後半から30代半ばまで、私は楽器店に勤めていました。お客様は、クラシックの演奏家がVIP的な存在で、その方たちの演奏会を全面的にバックアップすることもありました。
あるリサイタルのチラシを製作段階からサポートすることになり、紙面の構成や文字(タイポフェイス等)のことで、主役と私の意見が対立しました。
「プログラムの文字をもっと目立たせたい。これじゃあ、この人ばっかり引き立っている感じよ」
「他の文字は明朝体で、プログラムはゴシック体。しかも他より大きめの文字だから、もう充分目立っています」
主役の意図は、ご招待する先生たちの興味があるのは曲目だから、もっとわかりやすくしてほしい。「この人」というのは、クラシック界とは違う世界のちょっとした有名人で、そればかりが際立っているようなのが、お気に召さないようです。
「先生方が大事なのはよく分かります。でもご招待でしょう? チケットを買って聴きにきてくださるお客様には、《この人》をアピールした方が効果があるはずですよ」
お金を出して来てくださる聴衆を大事にしない素振りを見せる主役に、業を煮やした私は、言ってやったのです。
「あまりよく知らないクラシックの演奏会が例え1000円でも買いません。それよりユーミンのプラチナチケットの方が断然イイ!!!」
私の剣幕に圧倒されたのか、主役は私の意見をのんでくれました。実際、刷り上がったチラシは、プログラムの内容も充分目立つデザインで、満足していたようでした。
大事なお客様に意見するなどという大胆な行動をとったのは、若気の至りでしたねえ。でも、クラシックの演奏家の方には、本当に大事な【わざわざ足を運んでお金も払ってきてくださった聴衆】を楽しませるコンサートを考えていない、師匠や先生へのウケ重視、というのも実際いらっしゃるのです。
ユーミンのコンサート、良かったですねえ。どういう経緯だったか、もう覚えていないのですが、プラチナチケットを都合2回入手したことがあり、本当に心から楽しめました。堪能しました。
ユーミンは真の天才エンターテイナー。メロディも詩も舞台の演出も、ぜええんぶ満足できるミュージックコンサートを体験できたのは、誠に誠にしあわせでした。
小説ユーミンはフィクションとなっていますが、史実にかなり近いのではないかと想像します。私でさえ知っている有名人の名前が、それこそ掃いて捨てるほど出てくる、それはそれは贅沢な小説です。
今なお、第一線で活躍するスーパーポップシンガー。生い立ちを知ると、もっと虜になりますよ。