この方の作品を読むのは初めてだったのですが、楽しめて、最後には感動することができました。満足度◎です。「家族を描かせたら天下一品」という書評を寄せている方がいらっしゃいましたが、確かにうまいです。
十人十色とか千差万別とか言いますが、本当に世の中にはいろんな人がいます。この「水を縫う」に出てくる人物も、男なのに刺繍が好き、とか、女なのにカワイイが嫌いとか、ステレオタイプでしか物を見られない人は《???》なキャラクターに戸惑うかもしれません。
ステレオタイプでしか物を見られない人という表現は、ちょっとキツイですね。これは自分自身自戒を込めると共に、この本の登場人物である母親が、子どもたちを型に填めたがっている様から、出てきた言葉です。
若かった頃、私には、毎週、多い時には週2回も通い詰めた焼き鳥屋がありました。そこのナンコツが絶品で、次々と友人知人を招待し、「美味しいでしょ」と自慢していたものです。10人中9人は、とても気に入ってくれたのですが、ある時「自分の口はお子様なので、合わない」と言われて、愕然としました。ここのナンコツを美味しくないと感じる人がいるなんて。。。世の中には、とにかくいろんな価値観・好みを持つ人がいる、と強く認識したのは、その時からです。
在独中はその認識をさらに強烈に思い知らされましたね。セーターを編む男性、ドリルを操って木工細工に励む女性、自分が要らなくなったおもちゃを蚤の市で大人に混じって売る子供。。。まあ、こんなのは「序の口」です。ジェンダーとか年齢とか、変な固定観念にとらわれると、えぇえ?!となるシーンは、たくさんありました。
本の帯に「普通の人なんていない。普通の家族なんてない」という文言があり、読めば読むほど納得させられます。読了後、SMAPのセロリが頭の中をリフレインしていました。「常識がない」と言われて落ち込んでいる人には、ことさら勇気が出る作品かもしれませんね。