「塞王の楯」男のロマンが匂い立つ職人たちの戦国小説

矛盾とは、どんな盾でも突き破る矛と、いかなる矛も通さない盾、という相対するモノの存在からきた、中国の故事に基づく言葉でしたね。

その矛盾を戦国時代の「石垣」 VS 「鉄砲」で見事に表現し、世の中から戦争をなくすには、攻撃力アップか防衛力強化か、という深~い論議を投げかけてくる、見事な直木賞受賞作《塞王の楯》。

今村翔吾さんという書き手から、「男が追い求めるロマンとはこれだ!」と突き付けられたかのような、強い気迫を感じました。

どんなに攻撃されても守って守って守り抜く。これはスポーツの世界では時々見られるもので、ディフェンス側を応援している時は、手に汗握り、全身に力が入って、とても心臓に悪い。でも、逆転して勝った時の爽快感は倍増され、カタルシスの極みを味わえます。

私の乏しい記憶では、女子テニスのマチルダ・ヒンギス VS シュテフィ・グラフ。名試合でしたね。また昔の日本女子バレーでは、回転レシーブでスパイクを拾いまくる、というのがありました。

私がライブで観たのは、日本人初のプロ卓球選手・松下浩二さんの試合。彼は世界でも指折りのカットマンで、どんなにスマッシュを打ち込まれても、華麗なフットワークで拾いまくる、観ている者を感動に導くプレイスタイルが魅力でした。

塞王の楯を読みながら、あの時のエモーショナルな雰囲気が蘇り、主人公・匡介を全身を硬直させながら応援してしまいました。

とてもボリュームのある1冊ですが、ぐいぐい惹き込まれて、時間の経過を忘れます。金言も散りばめられた、中身の濃い名著、おススメです。