小説「安楽死特区」は怖くて笑えるオハナシです。

小説「安楽死特区」長尾和宏著

医学博士が書いた本格医療小説だけに、ディテールまでこだわりが感じられ、2024年という近未来をリアルに想像できます。

怖いテーマですね。”安楽死”。死ぬ権利を全否定はできませんが、私は肯定もしません。支持するなら”尊厳死”です。不治の病に罹ってものすごく痛いとか辛い(だるいとか痒いとか)なら、「殺してくれ~」ってなるかもしれませんが。

補助人工心臓というのがこの小説の中に出てきます。何をもって死亡判定とし、この補助人工心臓を外す(止める)のかという問いに、エビデンスが出ていない、という答えを読んで、私は笑いました。さらに電気が繫がっている限り生き続けるのかという質問に、電池ではなくて多重電源へのアクセスが可能なバッテリー云々という回答には、爆笑してしまいました。

小池都知事を思わせる人物の描き方とか、クセがいっぱいある登場人物が多くて、「これは作り話だなあ」と変に安心しながら読みましたが、最後に”現実にならないよう祈っています”という下りを見て、ブラックユーモアという言葉がピンときました。

重いテーマですが、分かりやすいつくりで、日本の社会保障制度とか、医療の問題などを真剣に考える、良いきっかけになる本だと思います。リヴィングウィルをきちんと書いておきましょうね。少なくとも私はスパゲティ症候群(管だらけになって死んでいく人)にはなりたくありませんから。