そこに工場があるかぎり

「工場愛はとまらない」 

本の帯にあるこの言葉が、この本の全てを語っていると言っても、過言ではありません。

小川洋子さんのモノづくりをする方達に向ける眼差し。そこには尊敬と羨望と愛情がこもっており、子供のような好奇心と作家という鋭い洞察力も同居していて、読みながら、目から鱗がぽろぽろ落ちていきます。

職人さんたちの矜持と愛情を、小川さんがしっかり受け止めていて、鉛筆1本でさえ、奥深い滋味のある話に仕上がります。たかが鉛筆とあなどることなかれ。あの1本にもこだわりぬいた素材が使われ、英知が結集しているのです。分かっている人は、大事に使っています。なにしろ《鉛筆神社》が存在するくらいですからね(私も知らなかったんですが)。

難しそうな技術の話も、分かりにくそうな化学反応の話も、小川さんの丁寧な描写で、自分がまるで工場見学しているように、すんなりとイメージできます。

小川洋子さんの「工場見学エッセイ」。かくれたベストセラーになりそうです。