数学が好きって変ですか?

博士の愛した数式 小川洋子著

日本語の先生がドイツ語を「数学的な言葉で苦手だ」と評していました。確かに情緒的な日本語と違って、ドイツ語は明解な理論を述べるのに適した言葉だと言えます。著名な哲学者にドイツ人が多いのも、ドイツ語というバックボーンがなせるわざかもしれません。

世の中に数学の苦手な人は大勢います。そのため、この愛すべき名品「博士の愛した数式」を読まない人がいるのは、哀しいことです。栄えある本屋大賞第1回目の受賞作で、読売文学賞受賞作でもあります。

「ぼくの記憶は80分しかもたない」という奇病(?)の数学博士。でも彼が説く数字の世界は美しくチャーミングで、主人公の家政婦はとりこになり、その10歳の息子は将来数学教師になります。

寺尾聡さんの博士姿がはまり役で、映画もおすすめ。本からでも映画からでも、どちらが先でも楽しめる、心温まるストーリーです。

記憶力が短いのは、認知症に通じるものがあります。同じことを繰り返し言うこと、何度言われても新しいことが覚えられないことを、怒ったり嘆いたりするのではなく、いつも初めてのつもりで接するというのは、愛情がなければなかなかできるものではありません。

あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。介護のヒントにもなる1冊です。