終末医療のドキュメントをさんざん読んできた私にとって、「ライオンのおやつ」はじんわりと涙を誘う、温かい「物語」でした。やさしい文体の中に、終末期のホスピスのことも丁寧に描かれており、さらに言えば、臨死体験まで(ネタバレになるのかなあ)垣間見せてくれます。
でも、なんと言っても小川糸さんの神髄は、その食べ物の表現につきるでしょう。読んでいると、何度も舌なめずりせずにはいられません。
「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」も良かったですが、きっとこの「ライオンのおやつ」も本屋大賞にノミネートされることでしょう。ひょっとしたら、大賞を取るのでは? と思わせる、ふか~いオハナシです。
生きていれば、いつかは訪れる日。その時まで、大事に生きよう、一食一食を大切に味わおう。そんな気持ちにさせてくれる、でもあくまでも”やさしい”1冊。帯に「小川糸の真骨頂」とありますが、まさにその通り、と、うなずいてしまいました。
小川さんの作品は、世界各国語に翻訳されていながら、日本での受賞歴がないのは、ちょっと不思議です。まあでも、関係ない。私はずっとファンであり続けます。