トリアージ「命の選別」を考える

2019年の大宅壮一ノンフィクション賞受賞作「選べなかった命」を初めて読んだ時、なんと怖ろしいテーマだろうと、身の毛がよだったのを、今でも覚えています。

「出生前診断の誤診でダウン症の子が生まれ、母親が医師を提訴した」というポイントだけ読めば、《なんて身勝手な母親だ》という感想を持つのが普通でしょう。でも、賞を獲ったくらいの作品ですから、そんな単純なオハナシではありません。

障がい者団体や母体保護法、優生保護法という悪法のまかり通った時代、医師・弁護士のそれぞれの立場など、幾重にも錯綜する重いテーマが、読み手の心に訴えかけてきます。

2019年には「出産」つまり生まれてくる命についてを考えるきっかけになりましたが、現在のコロナ禍においては「死」についてを否が応でも考えさせられます。

医療現場が逼迫している今、病院に入院できるか・自宅療養か、で生死が分かれたり、1台のエクモを巡って2人以上の重症患者の誰に使うのが正しい選択か、と医師が問われたり。

トリアージとは「選別」の意。緊急時にどの傷病者から治療・処置するかという優先順位のことをいうそうです。

TOKYO MER というドラマが高視聴率のうちに終わりましたが、緊急救命(ER)にはトリアージが重要になります。かなり荒唐無稽なドラマという印象でしたが、フィクションだからいいのかなあ。

朝晩がめっきり涼しくなりました。夜も長くなり、読書には絶好のシーズンです。命という重いテーマをゆっくり考えるのに、読み応えのある1冊を。「選べなかった命」はノンフィクション。文庫本も出ています。