シリアから亡命し、ドイツで物語を書き続ける ラフィク・シャミさん。

生まれた地の政治が横暴だったら。自由を奪われ、意に沿わない兵役に借りだされ、憎くもない人に銃を向けなければならなくなったら。

アラブ圏の政治の腐敗ぶりを知る ラフィク・シャミ さんは、亡命先のドイツで言葉をマスターし、ドイツ語で珠玉の物語を紡いでいます。ドキュメントという形ではなく、物語に真実を織り込むことで、多くの読者の心をつかみ、数々の賞ももらっていらっしゃいます。

私の世界への興味が欧米やアジアに限られているため、アラブ圏に関する知識はおざなりなステレオタイプで、自分がいかに無知であるということをこの本で思い知らされました。

国土が砂漠だから、思想や思考が、いわゆる私が考える常識と違ってしまう。日本は自然災害は多いものの、恵まれた風土気候に身を置ける幸せに、感謝しなければならないのだなあ、と今更ながら思い至った次第です。

この「ぼくはただ、物語を書きたかった。」はエッセイで、シャミさんの機知がぎりぎりの皮肉を交えて、ドイツやドイツ人のイヤな部分をも表現しています。蔑視を受けた経験は私にもあり、欧米人のエスノセントリズム(自文化中心主義)は根深いなあ、と再認識しました。

シャミさんの本領発揮されている分野は児童文学だそうです。ミヒャエル・エンデと並び称される偉大な作家の作品。また読みたい本リストが上書きされました。