昨年、日本語の授業で落語を扱いました。中級のクラスで《まんじゅうこわい》を聴かせたら、下げのあとで、「私は焼肉がこわい」とか「僕は寿司がこわい」という上々の反応。日本の伝統芸能は外国人にもわかるのだなあと嬉しくなりました。
この「こっちへお入り」は落語がうまく絡んだ小説です。言われてみれば、落語家には人間国宝もいらっしゃるのですね。立派な芸術と言えます。
私は今は亡き桂枝雀さんの大ファンで、大阪に住んでいた頃、寄席に何度か足を運びました。《代書屋》は今でも覚えていますし、SF 的な落語にも大笑いした記憶があります。浪速の爆笑王の訃報をドイツで聞いた時には絶句してしまいました。
高座での素っ頓狂な表情の裏で、笑いを科学的に解明しようとした研究者の顔を持っておられ、心の病がもとで命を落とされてしまった。本当に惜しい方でした。
落語の世界がこれほど奥深く、また現代社会にも通用する人生の機微に触れるものであることを、この本は気づかせてくれます。
いわた書店の年間売上ランキングを過去2年遡って読んでいる間に出会った本です。平安寿子さん、リズミカルな書風の上手い書き手ですね。フランス留学を記録した「セ・シ・ボン」も面白かったです。
父が繰り返し聴いていた「芝浜」のカセットテープ、今宵はじっくり聴いてみようと思います。