月夜の森の梟 小池真理子さんの亡き夫への想いがいっぱい詰まった名エッセイです。

母は夫(私の父)が亡くなって以来、以前ほどの快活さがなくなってしまいました。長年連れ添った伴侶をを失うという体験は、様々なエネルギーを枯渇させてしまうのだなあと、じんわり感じてはおりましたが、小池真理子さんの名エッセイが、切々とその感情を文章に著してくださっています。

結婚をしたことがない私にとって、数十年という長きを同じ人と共に暮らすというのは、全く想像がつかないライフスタイルで、「生涯このヒト一人!」という巡り合いには、心の底から憧れます。まだ結婚を諦めたワケではないんですけど・・・

安部元総理が銃弾に倒れ、昭恵夫人の悲しみの深さを思うと、胸が締め付けられます。おしどり夫婦と呼ばれ、お互いになくてはならない存在だった片割れがいなくなった。しかも突然。あまりに酷い別離です。周りの方、後継者として昭恵夫人を政界に引っ張り込もうとなさっているようですが、それは過酷すぎると思います。お二人にお子様がいらっしゃらないため、地盤看板を引き継ぐ人がおらず《もったいない》と思っているのかもしれませんが、もう少し愛情のある配慮というか、慰め方というか、心配りのできる方はおられないのでしょうか。ファーストレディだった女性ではありますが、しばらくそっとしておくことが肝要と私は想像します。

「月夜の森の梟」は夫婦そろって作家、それも直木賞作家という肩書が共についているという、小池真理子さんのエッセイ集で、ダンナ様は藤田宜永さん。ヘビースモーカーだった藤田さんは、肺癌で、闘病ではなく逃病の末、みまかられました。

死期がある程度予測できる”癌”を「キャンサーギフト」と呼ぶこともあるそうですが、衰弱していく伴侶を懸命に看病し、最後まで尽くしたとしても、これほどの切ないエッセイが編まれるほど、配偶者や恋人の死は酷い出来事なのです。

安部氏の周りの方々に、この嗚咽のかたまりのような本を謹呈し、じっくり人の痛みを慮っていただければと、昭恵夫人のために、陰ながら願っております。