アウシュビッツ裁判を描いて世界22か国で翻訳された小説

訳者のあとがきを元に、この小説の紹介をしておきましょう。

主人公のエーファはフランクフルトに住む24歳の女性。タイトルであるレストラン「ドイツ亭」を営む両親と姉と弟とともに暮らし、目下の最大の関心事は恋人との結婚というごく平凡な女性である。ドイツ語とポーランド語の通訳という職業から、偶然、エーファはアウシュビッツ裁判で原告側証人-つまりホロコーストの被害者-の証言を通訳するよう依頼される。当初はアウシュビッツのことを何も知らなかった彼女は、両親や恋人から強く反対されながらも、好奇心と義務感から通訳を引き受け、それがエーファと彼女の家族の運命を大きく変えていく。。。

ボリュームのある本ですが、史実を元にしたフィクションで、とても味わい深く、最後まで興味津々のままで読了しました。一種、ミステリー的な趣もあります。

在独時、テレビでミステリードラマを時々観ましたが、ドイツのミステリーは言葉が分からなくても「この人が犯人!」とすぐに分かってしまうくらい、わかりやすい作りでした。でもこの レストラン「ドイツ亭」 は、上等なミステリーと言っても過言ではないくらい、おもしろいストーリーです。

原題は ドイチェス ハウス で「ドイツ亭」なのですが、邦題にするとき日本では言葉を補う傾向が強いですね。例えばカミーユ・ヴェルーヴェン警部が活躍するピエール・ルメートルの傑作サスペンスは原題は アレックス ですが、邦題は「その女アレックス」となっています。

作者のアネッテ・ヘスさんは元脚本家。この物語も映画にしたら、見応えのある作品に仕上がるだろうなと、想像できます。ドイツ語の原文を頭の中でイメージしながら読むという作業も、私個人としては非常に勉強になり、有意義な時間を過ごせました。かと言って、原書を読もうなんて大それたことは、する気はないのですが。

この本の情報源は林真理子さんのユーチューブでした。フランスに造詣の深いお方とお見受けしておりましたが、ドイツにもかなり強い興味を持たれているということで、とても親近感がわきました。

ドイツ人の「負の歴史」に向き合う姿勢、同じ敗戦国である日本も、見習うべき点がたくさんあるのではと感じました。最近、とみに不甲斐ない日本の政治家達に、この本を読んでもらって、内省してもらいたいものです。