医師の書く小説

大先生 渡辺淳一 死化粧

最近、医師の手による作品ばかり読む傾向があります。

医師で作家の先駆けと言えば、渡辺淳一先生でしょうか。巨匠・森鴎外先生や、もっと遡れば大御所が数多くいらっしゃるのかもしれませんが、不勉強につきお許しください。

渡辺先生は直木賞作家でいらっしゃいましたが、この「死化粧」は芥川賞候補にもなった作品です。尚、この本は短編集で、4編が収録されていますが、そのうち2編は直木賞候補にもなっており、純度の高い1冊です。

いずれも医師の目線から書かれた、味わい深い作品ですが、中でも「霙」は、私の興味をことのほか魅きました。今読み返すと、時代錯誤というか、差別的な表現も見受けられる、コメントの難しい小説です。

渡辺先生の作品で注目度の高いのは、なんと言っても「失楽園」でしょうか。ドラマや映画にもなり、一大ブームを巻き起こしました。ロマネコンティの値打ちは、この作品で倍増したとの噂もあるほど、大きな話題の本でした。

先生の全作品を読破したわけではないので、大そうなことは書けませんが、初期の作品の方が、より医師としての目が冴えていて、奥深さがあったと感じられるのは気のせいでしょうか。「失楽園」や「愛の流刑地」など、話題作は官能小説と見紛うような作品が多く、「愛ふたたび」などは男性としての無邪気さを感じさせるようなストーリーで、読んでいてこっぱずかしくなりました。

確かに渡辺先生の場合、医師をお辞めになり、筆1本で身を立てられたわけで、年をふるにつれて医療現場も変化し、違う分野を書くのは当然の成り行きだったと言えます。「遠き落日」など伝記的な作品にも読者をうならせるものがありました。

つい最近読んだ作品は、女性医師によるもので、病院経営と医者の立場を考えさせる内容でした。直近の”コロナ対応で病院が赤字”というニュースに通じていて、医療と経済という相容れにくいディープな問題は、患者となりうる全国民の教育によって解決すべきなのか、政治がもっと介入すべきなのか、悩みのつきないテーマです。

世の中の大部分の医者は使命感のある意識の高い人であり、一部マスコミで報じられる悪徳医師や儲け主義の病院などは、いわゆる悪目立ちなのでしょう。3分診療もひどいけれど、コンビニ受診の患者も悪い。

とりあえず今の自分にできることは、健康でいて、お医者様のお世話になるべくならないようにすること。そう、健康第一という結論で、重いお話から戦線離脱したいと思います。