日本のレイチェル・カーソン? 有吉佐和子「複合汚染」

有吉佐和子著の異色問題作「複合汚染」

工場廃液や合成洗剤で川が汚染され、化学肥料と除草剤で土壌が死ぬ。有害物質は食物を通して人体内に蓄積され、生まれてくる子どもたちまで蝕まれる。

有吉佐和子氏はあとがきで「告発でも警告でもない」と明言しています。環境汚染の怖さを分かりやすく面白く書くことを心掛けたという、新聞連載小説です。

レイチェル・カーソンの「沈黙の春」はあまりにも有名ですね。詳しいデータに基づいた、科学的な読み物というイメージで、私には女史の本より有吉氏の「複合汚染」の方が面白く読めました。

殺虫剤は虫だけを殺し人体には影響がない、などという化学薬品メーカーの言葉を鵜呑みにする人がいることに、私は脅威を覚えます。実際、農家の方達は、自宅近くで作る自家消費用の作物は、手間がかかっても農薬を使わないで育てているという現実があります。市場に卸す作物には、虫食いなどでの見栄えの悪さで商品価値が落ちる(あるいは無くなる)のを防ぐため、やむをえず農薬を使っているとか。

有機栽培の農産物が見た目が悪く値段も高いのは、生産者の方の苦労がしみ込んでいるからです。薬品に頼らず、昔ながらの自然農法で作られた農作物は、滋養も高く、味も良い。でも世間の大部分の消費者は「安さ」にまず惹かれてしまう。結果、汚染された食品を摂取し、ゆっくりと健康が蝕まれていく・・・

有吉氏がこの「複合汚染」を書き始めたのは、昭和49年(1974年)10月です。これほど昔の著作なのに、今読んでも色あせていないのは、なぜなのでしょう。

稀代のストーリーテラーによる問題作。ぜひお手にとってお確かめください。