「ぼくもだよ」という言葉のミラクル

「人は食べたものと読んだものでできている」まさしくその通り! 食べ物と読書は人間の身体と心を形作るものだと思います。「ぼくもだよ。」の冒頭の一文がこれで、主人公・竹宮よう子さんの信念でもあります。

ぼくもだよ。神楽坂の奇跡の木曜日 平岡陽明著

この表紙の絵のように、よう子さんは盲導犬と暮らしています。盲目の書評家。なんとも気になるプロフィールです。

もう一人の主人公・本間は出版業界に対する苦言を呈しています。いわく「今みたいに新刊の洪水じゃ、自分が読むべき本なんて誰もみつけられませんよ」業界全体の出版点数を今の十分の一にし、定価を2倍か3倍にする。。。ふ~む、なるほどねえ。

新刊書店の息子として生まれ、その苦労を目の当たりにして育ち、自身はその書店をつぶして古書店のオーナーになっている本間の洞察は、売る側の本音を切実についているように思われます。

では、読む側はどうか。読書の根本にあるのは「人生をより良く生きたい」と願う心と、「世界をもっと良く知りたい」という好奇心である、といみじくもこの「ぼくもだよ。」に記されています。

巷にあふれるまさに洪水のような量の本の中から、良書を選びだすのは、なかなか至難の業です。私は各誌の書評や広告をなるべくチェックするよう心掛けていますが、売らんがための評価や宣伝文句もあるし、人によって趣味嗜好は千差万別。1冊まるごと《スバラシイ》といえる奇跡のような出会いは、やはり稀で、1文だけ光り輝く表現があった、という発見で満足していることが多いのが、実際のところです。

「ぼくもだよ。」には、宝石のような美文がちりばめられていました。そして、このタイトル自体が・・・あ、これはネタバレになるので、ここまでにしておきます。

角川春樹氏が《今年1番の感動作だ》と推している角川春樹事務所の自信作。本好きの方の心に響く箇所が必ずあります。