相場英雄さんの意外な一面?!

昨日(20021年1月4日)の朝日新聞・折々のことばの欄に印象的な言葉が掲載されていました。

「経済合理的」に考えることは、単なる思考法の1つだが、すべてのことを経済合理的にしか考えないのは信仰である。 平川克美

この言葉が、相場英雄氏の名作「震える牛」のプロローグとつながります。

震える牛 相場英雄著

幾度となく、経済的な事由が、国民の健康上の事由に優先された。秘密主義が、情報公開の必要性に優先された。そして政府の役人は、道徳上や倫理上の意味合いではなく、財政上の、あるいは官僚的、政治的な意味合いを最重要視して行動していたようだ。

怖い話だと思いませんか? 映像化して社会に知らしめるのに十分な内容であるのに、この作品はなかなかドラマ化されませでした。スポンサーがつかなかったからです。企業悪を如実に表現した社会派サスペンス。利潤追求を是とするたいていの企業は、この小説の壮大なドラマに怖気づき、最終的に WOWOW が手を上げました。NHK でも民放でもなく、《視聴者が見たい番組のためにお金を払っているチャンネル》。こんな風に生かされることもあるのだな、と改めて世の中の多面性に想いを馳せました。

クランクイン 相場英雄著

そんな危険きわまりないミステリーを書いた作家が、「クランクイン」というエンターテインメントを書いていることに、意外性を感じました。帯には「相場英雄のネクストステージを告げる会心作」とあります。映画がどれほど苦労して作られているのかを、とてもリアルに、細かい数字まであげて描かれており、笑いと興味が尽きない作品です。

これからステイホームが宣言されそうな不穏な空気の中、2作品とも、違った意味で楽しめる小説です。最後にアフターコロナを暗示する、「震える牛」のエピローグから

21世紀の特徴は行き過ぎた企業権力をそぐための闘いになるだろう。極限にまで推し進められた自由市場主義は、おそろしく偏狭で、近視眼的で、破壊的だ。より人間的な思想に、取って代わられる必要がある。