日本語について勉強したことがある人なら、日本語の源流は「謎」であるということをご存知でしょう。そんな中で大野晋先生は国語学の教授として、日本語の祖先を追求すべく、たゆまぬ努力を続けておられます。
この本によると、日本語の文法構造はツングース語、モンゴル語、トルコ語と共通なところがあり、アルタイ諸語という同系に日本語も加えては、という説もあるとか。
私は留学時代、コスタリカ出身の女性と仲良くなり、言葉について少し突っ込んだ会話をしたことがあります。コスタリカはパナマ運河にほぼ近く、公用語はスペイン語ですが、現地語が母語としてあるようで、「私の母語と日本語は文法が似ているから、日本語は覚えやすかったわ」と彼女が言っていたのが、強く印象に残っています。
世界中には少なくとも6000種の言語があると言われており、日本語は大言語(使用する人の数が1億人を超える言語)でありながら、その源流が解明されていないというのは、本当に不思議です。
文法が同じというのは、「主語ー目的語ー動詞ー助動詞ー助詞」という語順が共通しているということ。ただ、語彙(ボキャブラリー)については別で、大野先生は《タミル語》がきわめて日本語に近いとし、探求を続けておられます。
言葉の研究というのは、古典や各国の辞典などをひもとく、実に根気のいる作業ですね。この岩波新書はまだ分かりやすく書かれている方なのでしょうが、それでも私は何度か投げ出しそうになりました。
ドラヴィダ語の単語が a,i,u,e,o,ka,ki,ku,ke,ko の順に並んでいたという表記がありましたが、日本の国語辞典を初めて50音順で作った三重県の英雄”谷川士清(たにがわことすが)”の名前が出てこなかったのは、ちょっぴり不満です。
大野先生のご説によれば、縄文時代、西日本ではポリネシア語族の1つが使われていたのが、タミル語の到来により、ヤマトコトバが作られるようになった。その後、漢字が伝来し、言語が変遷していった。ということで、日本語の源流は、インド半島南西部とセイロン島に分布するドラヴィダ諸語の代表・タミル語というのが結論のようです。
言語学や国語学は奥が深いですね。普段なにげなく使っている言葉も、教える立場になってみると、いろいろ考えさせられます。学習者に真摯に答えられるように、折に触れ、日本語への洞察を深めていきたい。年頭から気合が入る1冊でした。