国民的作家・山崎豊子先生の大作「大地の子」。中国残留孤児の方々に数多く取材を重ね、文化大革命を小説化した力作です。かつてNHKでドラマ化された際、当時まだ無名だった上川隆也さんが起用され、その圧倒的な演技力に、私は目を瞠らされたものでした。
私はその頃、上川さんを中国人か中国系の2世だと信じて疑わなかったのですが、後で純粋の日本人と知り、心底驚いたものです。中国語の四声は非常に難しいのに、完璧な(と私には聞こえたのですが)発音で中国語のセリフを喋っていた上川さん。彼のストイックな俳優魂は、昔から変わりませんね。今では押しも押されぬ実力派として、確固たる地位をキープされています。
その難役に佐藤健さんが挑戦されるとのニュースで、私の期待はいやがおうにも高まります。コロナ禍で撮影が難航しているようですが、放映をゆっくり楽しみに待とうと思います。
「大地の子」はフィクションですが、文化大革命を中国人の冷静な目でとらえたノンフィクションの名作に「ワイルド・スワン」があります。実を言うと、私はこの「ワイルド・スワン」の方が好きで、文化大革命や後の天安門事件など、中国で起きた思想弾圧の歴史には、知的好奇心が刺激され続けています。
毛沢東礼賛の多くの中国人を敵にまわしそうですが、文化大革命は世紀の《大虐殺》であり、大切な文化遺産を葬ってしまった残念な時代であったと言わざるをえません。
ネタバレになりますが、髙村薫氏の「リヴィエラを撃て」のキーになるのも、中国のこの悪政です。
ボランティアで日本語を教えていた時、日本語の勉強そっちのけで議論をふっかけてくるアイルランド人がいました。私の拙い英語で政治に関する話をするのは、かなり骨が折れましたが、毛沢東の話題になった時は、二人で異常に盛り上がりました。
「彼は歴史上、最大級のクレイジーマンで殺人者だ」「ヒトラーよりもたちが悪い」
中国の方が聞いたら、耳を潜めるか、場合によっては激怒されそうな会話ですが。
ところで、最近の高校生は、世界の歴史を勉強しないのでしょうか? 「ヒトラーって誰ですか?」と真顔で尋ねられた時は、しばらく絶句したものです。
知の巨人・立花隆さんの訃報に接した時、「教養」について力説されていた巨人のことを思い出しました。最近の若者は教養どころか常識もアヤシイ、と草場の陰で嘆いていそうですね。
毛沢東と文化大革命。中国ではどんな風にこのキーワードを教育現場で伝えているのでしょうか。私の野次馬的好奇心が刺激されます。それにつけても来年放映される日曜劇場。今から楽しみです。