「推し、燃ゆ」に見るファン心理 

宇佐見りんさんの芥川賞受賞作「推し、燃ゆ」をようやく読み終えました。女子高生が自分の好きなアイドルにこれほどまで熱中し《命にかかわる》とまで言う。私自身はそこまで耽溺することはないですが、身近にハマッている実例を見ているので、詳しい心理描写がストンと腑に落ちました。

今の職場にK-POPにはまっている若い女性がいて、彼女の行動を私は初めの頃、理解ができませんでした。いわゆるスマホ中毒で、暇さえあれば画面を覗きこんだり、何やら入力したりしているのです。いぶかしむより、疑問をクリアにしようと質問すると、彼女は嬉々として答えてくれました。ツイッターで自分が追っかけているアイドルのファン同士がつながり、コメントをやりとりし合っているのだとか。

とにかく若い間は、そのアイドルの追っかけに全力を尽くす(命をかけるとまでは言っていませんでした)のだそうで、コロナ禍以前はしょっちゅう韓国へも出かけていたとのこと。お金を貯めるのは、そのアイドルに会うためで、常に彼に関する情報をアップデートし、公演予定なども全て把握。ちなみに彼女の使っているスマホは最新の高性能機種で、お値段は10万円以上! 通信代も使い放題のパッケージを申し込んでおり、自分の命綱だと豪語してはばかりません。

スマホ中毒は自覚しているらしいのですが、生の彼に長らく会えない現状では、他に生き甲斐がないとのことで、しかたがないと言いきっていました。

一方、私の学生時代の友人が三浦知良の虜になってしまい、筋金入りの《追っかけ》をしていました。非常に頭のいい友人で、仕事はとても出来る女性なのですが、国内で行われる”カズ”の出場する全試合をライブで観戦するため、有給休暇を全て使い果たしてしまったという熱の入れようぶり。将来カズさんがイタリアでプレイするかもしれないと、積極的にイタリア語の勉強もしていました。専任の家政婦を目指していたのです。

思惑がはずれ、一時期クロアチアのチームにキング・カズが所属していた頃。私は当時在独中だったのですが、この友人からメールが入り、クロアチアへのトランジットがフランクフルト空港なので、○月○日XX時に空港で会えないかという相談でした。あいにく用事が入っており、片道2時間の移動も億劫で、断ってしまったのですが、返信メールはカズさんラヴを喧伝する熱いメッセージでした。彼女が今どうしているか、消息は不明です。

「推し、燃ゆ」の中の言葉遣いは、いわゆる若者言葉のオンパレードで、《推し》って自分が推しているアイドルを指しているのよね、と納得するのに少しかかり、《スクショ》は文脈からスクリーンショットの略語らしいと判断しました。イマドキの子達にとっては、普通の言葉なのでしょうが、芥川賞選考委員の先生方はちゃんと理解なさっていたのだろうかと、老婆心を起こしてしまいました。

ファン心理。大まかには理解できますが、私にはそこまでカセクトできるものはないなあ。世の中、いろんな人がいるなあと、改めて感じる今日この頃。