いじめ。なんとも暗い話題ですが、奥田英朗氏にかかると、読者の心をつかんで離さない”傑作長編サスペンス”となります。
朝日新聞の連載小説だった当時から大反響を呼んでいたという衝撃の問題作。私はその存在をいわたま(岩田書店の YouTube)で知りまして、随分遅い紹介となります。
奥田英朗氏の作品はこれまでに「罪の轍」と精神科医・伊良部が活躍(?)するシリーズをここに綴ってきましたが、いやはや本当に上手い書き手ですね。「沈黙の町で」は帯に”奥田文学”という文言があるくらい、もうベテランの域に達している感があります。
事故か、自殺か、それとも・・・とハラハラどきどきさせる絶妙の展開。最後まで飽きさせません。亡くなった中学生、その周りにいる生徒たち、親、教師、警察や検事、新聞記者まで。それぞれの心のひだを丁寧にすくい取っていて、心理描写が見事です。
《普通なのに経験と常識がないことが、少年犯罪の悲劇なのだ。しでかした後で事の重大さに気づく・・・》
リアル感たっぷりの奥田作品と対照的なのが宮部みゆき氏の「ソロモンの偽証」。こちらは映画(しかも前編・後編の2本立て)にもなりましたが、なにしろ文庫本全6巻の大作(写真)
「沈黙の町で」と同じく、中学生の校内死がことの発端ですが、こちらは中学生が”学校内裁判”を開廷するという、なんともドラマティックな筋立て。宮部ワールド炸裂という感じです。
「いじめ」や中学生の死について、現実的に考えるか、ファンタジーでとらえるか。いずれの小説も渾身の作で、甲乙つけがたいです。どちらもバリバリ売れっ子の直木賞作家。お好きな方(できれば両方)をどうぞ。