『このミステリーがすごい!』大賞受賞作-元彼の遺言状

主人公の剣持麗子さん。この表紙の絵は、なかなかうまく雰囲気を出していますね。この世で一番大事なものは「オカネ」と公言してはばからない、敏腕弁護士です。そんな強烈なキャラクターが中心になって展開するミステリー。しかも

「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」

という奇妙な遺言状を巡るストーリーは、読者の「それで? それから? で、どうなるの?」という好奇心を強く刺激し、最後まで飽きさせません。

ミステリーは頭の良い人しか書けないと言いますが、著者の新川帆立さんも東大法学部卒の現役の弁護士で、さすがというかやっぱりといおうか。

いや、もう、素直に、面白かったです。

ところで、《麗子》という名前に、私は強く反応してしまうところがあります。オカネ大好きなデキル女の名前にふさわしいというか・・・というのも、かつて一時期、私は生命保険の営業職についたことがあり、その直属の上司が麗子さんで、それはそれは強欲な方だったので。ちょっとだけ、思い出話を書いておきます。

ご自分の着ている服の値段を「今日のスーツは50万円」「このコートは100万円」とはっきり自慢気に言い、ビジネスバッグはカルチェ。見た目の豪快さ、声の大きさ、まさに自己顕示欲のカタマリのような女性でした。

なんでそんな人の部下になったかと、少し後でかなり悔いたのですが、面接の時は、そのオーラみたいなものに圧倒されてしまったのです。なにしろ大阪の女性長者番付の上位3位までに毎年ランクインしており、当然、所属の営業所での営業成績はトップ。バイタリティーにあふれ、抜群の行動力でどんどん契約をとり、自分の部下を次々に見つけてくる。

今のシステムや会社によって制度は異なるのかもしれませんが、保険会社のいわゆる生保レディという仕事は、大きく2つのものを追求します。

1つはもちろん保険契約。アメやティッシュを配ったり、生年月日を聞きだして占いを手渡したりして、私はかなり地道な営業をしていました。

もう1つは、自分の子分を作ること。生保の場合、1つの契約を取ると、翌月すぐにマージンがもらえるのではなく、1年とか2年に渡って、少しずつ支払われていました。だから、短い期間で辞めると、せっかくのマージンがもらえません。また、自分の子分(部下)のマージンはそのボスにも一部渡るシステムで、部下を増やそうと、上司は頑張るわけです。

ただし、私の上司だった麗子さん。キャラに難があったため、惹きは強いのですが、定着しない。勧誘する時はとびきりの営業スマイルで惹きつけ、部下になったらアゴで使い、できなければ叱り飛ばす。教え方はぞんざいだし、思い通りに動かないと癇癪を起す。

そんなわけで、私の生保での営業職も1年間が限度でした。一人暮らしで入ってくるお金より出て行く方がどうしても多く、麗子さんには生活の援助までは求められず、食費を切り詰めたため、どんどん痩せていきました。最低限のノルマは毎月こなしていたのに《フツウ》の生活ができない。大げさかもしれませんが死活問題だったのです。

まあ、あまり苦労話を披露しても楽しくないので、この辺にしておきます。

最後に、剣持麗子と白鳥麗子は好きだけど、上司の麗子は嫌いだあ!!!