関東大震災時に起きた隠された真実を綴るノンフィクション「典獄と934人のメロス」

著者は坂本敏夫氏。ご自身が刑務官などを歴任され、椎名通蔵典獄(刑務所長)という歴史から隠された傑物の存在を知りました。不透明かつ歪曲された明治以降の刑務所研究をライフワークにされ、この感動的なノンフィクション「典獄と934人のメロス」(文庫本は「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」に改題)を著されたのです。

《メロス》は太宰治の「走れメロス」から来ています。大地震で倒壊した横浜刑務所の囚人を椎名典獄は監獄法第22条の規定により24時間解放。典獄との約束を果たすため、囚人たちは激しい余震が続く中、懸命に走ります。

刑務所に関する本は、これまでに「獄窓記」「ケーキの切れない非行少年たち」の2冊をご紹介しましたが、犯罪者を更生する施設の正しいあり方を、坂本敏夫氏は《ノンフィクション》という手法で見事に表現されていると、感激ひとしおです。

折しも今日は9月1日。関東大震災が起きた、現在では「防災の日」です。防災意識も大切ですが、流言蜚語に惑わされないようにするための、人々の心の意識改革も重要であると、この名著を読んで痛切に感じます。

関東大震災ではデマのために多くの朝鮮人が犠牲になったことは周知の事実です。そのような悲劇が2度と起きないように、この本をなるべく多くの方に読んでいただきたいと、今日は切実に思っています。

それにしても、私欲のない椎名通蔵氏や広田弘毅のような偉人は、今の日本の政治家には望めないのでしょうか???