日本人はネガティブが好き?

臨床心理士の必読書、M.スコット・ペック著 愛と心理療法

栗原心愛ちゃんの父親・勇一郎の裁判員裁判が行われています。自分の子どもとは無条件にかわいいもの、愛すべき存在、と普通に信じていた私も、たくさんの虐待や育児放棄に関する本や記事を読み、一概には言えないのだなと、冷静な目で、この裁判を追うようになりました。

実際に子育てをしたことのない私に、偉そうなことを言えた義理はないのですが、最近よく考えるのは、世の中は連鎖しているということです。

愛情を受けて育った子は、親になった時、自分の受けた愛情をまた自分の子どもにかける。連綿として続く正の連鎖として、静観できます。

ところが不全家族では、自分が虐待を受けて育ち、そのような度を超えたしつけを、自分の存在意義を肯定するために、自分の子どもに対しても同様にしてしまう。おそらく栗原勇一郎の育ってきた環境は、今後の裁判で明らかにされ、虐待されていた事実も浮かび上がってくるのでしょう。負の連鎖はどこかで断ち切らなければならない。私の身近にも子供を叱りつけながら育てている母親がいて、「そんなに叱ったらかわいそう」というと、「私も叱られて育ったんだから、これでいいのよ」と返され、簡単には断ち切れない、根の深さに慄然としました。

ところで、本好きの私が”バイブル”と位置付け、大切にしている1冊が M.スコット・ペック先生の「愛と心理療法」です。

精神科医、臨床心理士、心理カウンセラーなど、いわゆる心の病の患者に向き合う職業の方には、ゼッタイ読んでおいてほしい、と素人の私が(あ、でも一応心理カウンセラーの資格は持っています)ムキになって薦めています。

在独中、周りには”海外不適応”に罹患していると思われる日本人が何人かいて、専門書を読むと、治療法は一言「帰国させる」。それってあんまり短絡的に過ぎない?!と、自分なりに心理学・精神医学の世界を勉強しようと思い立った当時、静かなブームだったのが、「平気でうそをつく人たち」でした。

平気でうそをつく人たち M.スコット・ペック著

この本は冒頭に「この本は危険な本である」と書かれています。「虚偽と邪悪の心理学」という副題もついており、怪しげな雰囲気が漂います。出てくるエピソードには「サイコパスとは言えないけれど、危ない人」というビミョーな人物が登場し、読んでいてイヤな気持ちになります。

例えば、登場するのは、こんな親です。

兄が自殺に使った銃を、弟のクリスマスプレゼントにする

背景を説明する必要がありますね。舞台はアメリカで、兄はライフルで自殺しています。両親はその自殺に使われたライフルを弟のクリスマスプレゼントにそのまま使いまわしたのです。私は悪意を持ってこの文を書いているつもりはありません。自分では義憤を精一杯抑えたいのですが、このエピソードについては、冷静に書くことができません。

ペック先生は精神科医です。上記の常軌を逸した(と私は思うのですが)親の息子、つまりライフルをプレゼントされたという弟のカウンセリングをしていました。ペック先生は、弟のために、この両親と弟を引き離す措置をとります。賢明な判断だと思いました。

ペック先生の「愛と心理療法」はアメリカでベストセラーになり、その売り上げは300万部を超えたそうです。

ところが日本ではこの本は専門家の間でのみのブームで、より世間の注目を集めたのは、ネガティブな内容の「平気でうそをつく人たち」でした。読んでいて頭痛がするような邪悪な人たちが、善意のお面をかぶって、名士として世間に名を馳せ、自分の名誉のために子供を犠牲にする。そんなお先真っ暗的なことが書かれた本が、日本では「愛」を説く本よりもよく売れたというのが、なんだか哀しくて、

「愛と心理療法」をもっと読んでください!!!

という願いをこめて、このブログを書いています。

恩寵やエントロピーの話の辺りは、確かに少し冗長的かもしれません。でも、真っ当な心の持ち主であれば、この本が表さんとしているポジティブでピュアな感覚を理解できると思うのです。

かつてリ社に勤務していた頃、先輩にもらったメッセージで、心に沁みているものがあります。

「基本は愛」

皆様、愛を大切に。