バラク・オバマ著、「約束の地」は素晴らしいです!

もっと時間に余裕があったら、じっくり読み込みたい。そう思わせる大作でした。とてもボリュームのある上下巻を決められた期日までに読む必要があり(図書館で借りたため)多忙を言い訳に精読ができず、かなりの乱読での報告になることをご容赦ください。

オバマ氏の政治家を目指した理由は、非常に真っ当なものです。曰く、子どもたちにより良い教育を受けさせること、家庭に医療を届けること、そして貧しい国々がより多くの食糧を生産できるよう支援すること。

アメリカが世界のリーダー的役割を果たしていることを十分に理解した上で、オバマ氏は、ご自分の目指す平和で豊かな世界を実現させるために邁進されました。大統領は、常に複数の仕事を同時に進めることを余儀なくされます。金融危機がやってきたからといって、アルカイダが活動を停止するわけではなく、ハイチで地震が起きた時には、その救援活動と、前々から予定されていた、氏が議長を務める47ヵ国参加の核安全保障サミットが重なりました。そんな状況にありながら、つまらないミス、予期しない事態、正しくても国民受けしない政策、広報の失敗などを原因に、メディアの論調が厳しくなり、リーダーとしての能力が足りないように映ってしまう。アメリカの大統領とは本当に過酷なポストです。

でも、アメリカ初の黒人大統領という偉業は、差別意識の強い彼の地では、思わぬ反発、特に根深い嫉妬心を燃え上がらせ、どんなに素晴らしい政策も「黒人の作ったシステム」という理不尽な理由で、却下されることが多かったように思えます。愛妻ミシェルさんの著書 BECOMING (邦題 マイ・ストーリー)でも、その点はかなり印象的に描かれていました。

明晰な頭脳と的確な判断力、また不屈の精神力を持ち合わせたオバマ氏だからこそ、あのサブプライムローン問題もなんとか乗り切れたのであり、また、オバマケアという、これまでのアメリカでは実現不可能と思われていた健康保険システムの導入にも成功しました。

しかし、水清ければ魚棲まず、ということでしょうか。あまりに理想を追求した政治がもたらしたのは、既得権益(財力だけでなく、有色人種に対する優位を誇っていた白人という立場も)を守りたい層の逆襲でした。トランプが大統領の座を射止めた理由は、オバマ氏があまりに高尚で潔白すぎたからなのでしょう。

アメリカの富裕層には「あらゆる税は収奪に他ならず、社会主義への道を均すものであり、あらゆる規制は市場主義の原則とアメリカ流の生産様式に対する裏切りである」という考えが根付いていました。そんな彼らが、オバマ氏の精錬な政策に同意できるはずがなく、トランプのわかりやすいポリシーに流れたのも当然と言えます。

本書の中では、各国の政治家や著名人、また我が国の天皇皇后両陛下(現上皇上皇后様)についての印象を記した部分も秀逸です。以前ご紹介した「ふたり 皇后美智子と石牟礼道子」で上皇上皇后様のお人柄について興味深く拝読させていただきましたが、オバマ氏の表現もまた、そのお人柄を彷彿とさせる内容で、その表記がとても正確なものであることを裏付けています。

この本は「大統領回顧録 I 」となっており、一期目の4年の話で終わっています。つまり続編があるということです。ご多忙なオバマ氏が、いかに時間を捻出して、続きを執筆されるか、そしてこの素晴らしい翻訳がまたなされることに、期待が高まります。願わくば、原文で読める英語力を身につけたいのですが、それは私にはかなわぬ夢ですね。

トランプの自著なら私の英語力でも読めそうですが、彼がゴーストライターを使わずに自分でペンをとることは想像できないし、万一ありえたとしても、スペルミスだらけの悪文しか書けないような気がします。貶めすぎですかね。