安いニッポン「価格」が示す停滞 中藤玲著 日本経済は危険水域です。

安さ礼賛傾向には危機感を抱いておりましたが、ここまで冷静に分析されると、日本から逃げ出したくなりました。「ゆりかごから墓場まで」福利厚生が手厚く保障されている大企業勤務者を除き、日本にいるメリットは「安全・安心・物価が安い」しかなさそうです。そして、その境遇に甘んじていれば、いずれ世界から取り残され、外国人に顎でこき使われる立場へと転落するでしょう。

恐ろしいことを書いたかもしれません。私のこの本の読解が誤っているかもしれないので、日経の新書版(お値段850円+税)をお求めいただくか、図書館で借りて、とにかく読んでいただくことをおすすめします。

今日は私の体験から、この「安いニッポン」につながりそうなエピソードを綴ってみたいと思います。

語学講師になる前は、パートで事務職に就いていました。きっかけは産休のパートの方のピンチヒッターとして、1年間、派遣で時給1200円(わかりやすいよう、赤裸々に金額も開示します)で働きました。期限が切れる際、パートとして引き続き同じ業務についてほしい、産休明けの方には別の業務を任せる、ついては時給は800円で、というお話がありました。

最低賃金に近い金額の提示に愕然としましたが、年齢的な問題で就職活動がうまくいかず、また職場が通勤至便な所(ドアツードアで10分ほど)で、仕事は自分に合っており、人間関係も普通だったので、かなり悩みましたが、結局続けて勤務することにしました。

慣れてきたため、パートとは言え、それなりに責任ある仕事も任され、繁忙期には深夜残業に及ぶこともあり、元々ワーカホリックという体質も禍いし、かなりの業務をこなしていたと自負します。

ここで一人、超問題児がいました。仮にA氏としておきましょう。あだ名は「ウルトラマン」。そのココロは《3分しか持たない》

A氏は私より年上の男性社員で、肩書のついた人でした。直属の上司ではありませんでしたが、一緒のシマで机を並べていたため、氏の働きぶりは嫌でも目に入りました。3分電話でしゃべってはタバコを吸いに行く、3分パソコンに向かった後、デスクで堂々と居眠りする。所長もお手上げの放任でした。誰も注意できない、本人は自覚していて開き直っていたのか。謎のままです。

私の見た限り、A氏のメイン業務は『重要書類の破棄』でした。個人情報を大量に扱う会社で、毎年膨大な書類が倉庫に保管され、一定期間をおいてしかるべき処理がなされなければならないのですが、会社が郊外にあり敷地が広く、焼却炉まで備えていたのです。つまりA氏の仕事は『保存期間を過ぎた個人情報を焼却すること』でした。

彼に年間いくらの給与・賞与が支払われていたか、私は存じ上げません。でも、高級車で会社に乗り付け、ランチはグルメなレストランへ出かけて外食していましたから、中古の軽自動車で手弁当を毎日持参していた私とは、好対照だったと言えます。

社員には手厚い給与と賞与を払っていたようで、他の社員については文句は言いません。でもA氏への厚遇を守るため、私は最低賃金で働かされ、おそらく年収換算して5倍くらいの開きがあったという差別ぶりには、怒りがこみ上げました。

時給をアップしてもらえないか交渉した結果、前例がほとんどない、との回答に、即辞表を提出。有給休暇だけは未消化分がたっぷりあったので、引継ぎだけは律義に行い、後はトンヅラです。

そういう訳で、語学講師という仕事を始めるまで、紆余曲折がありました。今でもかつての同僚と会う機会があるのですが、A氏は定年ですぐ辞められたとのことです。

なんだか、力いっぱい”愚痴”を書いてしまいましたが、多かれ少なかれ、日本のある程度の規模の会社には、実際に起こっている事象ではないかと想像します。

あんな奴の高給を稼ぐために、自分たちはこんなに苦労して・・・という不満を社員に持たせることのないよう、経営者の方には、適切な仕事と報酬の配分をお願いしたいと思います。