なぜ父親は出自を語らなかったのか。安田菜津紀さんの魂がこもった兄への手紙をご紹介します。

小学校の卒業式の日、校長先生が卒業生への祝辞の中に、こんな言葉を述べていました。

「ほとんどの児童が尊敬する人を《両親》と書いていましたね。先生は誇らしかったです」

私はその数少ない《書いていない派》でした。

自分で自覚しているのですが、私は生意気です。子供の頃から既にそうでした。

私にとって親は、もちろん大事な存在です。心から『感謝』しています。でも尊敬の対象ではありません。これはもう、子供の頃から、今に至るまで、変わりません。

一番、根深いのは、父が筋金入りの韓国(朝鮮と父は言っていましたが)嫌いだったこと、そして母が常に公然と部落差別を口にすること。

いろんな心理学の本を読みましたが、子供は親の考えに染まるのが普通らしいです。でも私にとって、親は「反面教師」でした。

学校の先生にも、信頼を置いていなかったですね。新聞で読んだ記事の知識などを授業中に発言すると、真っ向から否定されることが何度かあり、教師というのは新知識を受け入れない人種だ、と思い込むようになりました。

安田菜津紀さん。サンデーモーニングにコメンテーターとして出演中とプロフィール欄でやっと知ったくらい、テレビをほとんど見なくなったので、この本に書かれている、在日への『ヘイト』に対する視線や見解は、心の奥深くに訴えかけてきて、苦しくなりました。

父がなぜ朝鮮人を嫌っていたのか、残念ながら理由を問いただす機会を逸しました。単なるステレオタイプの偏見からきていたのだろうとしか、私には推測できませんが、確かめもせず、噂や評判だけで、人を排除するような態度をとる者は、私は例えそれが親であっても、尊敬には値しない人物という評価を下すのです。はい、生意気です。

安田さんの行動力、信念をもって表舞台でご自分の意見を伝える勇気、喝采ものです。

おばあさまの足跡が、早く見つかると良いですね。応援しております。