草壁竜次と青酸カリ。この2つのキーワードで、ある事件を思い出す方は多いのでしょうか? 1998年12月12日にある女性が宅配便で届いた6錠のカプセルを飲んで倒れ、救急救命センターに運ばれたが死亡した、という事件です。
当時、私は留学中だったため、この《青酸カリをネットで販売した自殺教の教祖》というセンセーショナルなニュースを全く見ておらず、この「Dr.キリコの贈り物」を読んで、今回初めて事件のあらましを知りました。
著者の矢幡洋氏は臨床心理士で、丹念にこの事件に関わった主な人物に取材を申し入れ、貴重な証言・往復書簡(主にメール)を入手され、冷静な目で内容を分析されています。
私が当時、報道された事件を鵜呑みにしていたら、恐らく真相を誤解したままで終わっていたでしょう。とてもディープな、独特な感性の持ち主達によって引き起こされた『不幸な結果』を、私も妙な先入観なく、読み進めることができました。
自殺を願う人々の心理。それは想像以上に複雑で、一括りにして片づけることはできません。精神科の診断では《鬱病》と分類されるわけですが、中でも重症の、普通の処方薬では根本的な治療にならない羅漢者に対し、草壁竜次は自分の知識と経験から、青酸カリを《お守り》として『預ける』という方法を見出したのです。
普通の精神状態の人には全く摩訶不思議なこの方法というか理論というかは、この「Dr,キリコの贈り物」を読んでいただければ、とても良く(少なくとも私はそのつもりです)理解できます。
生まれてきたことを恥じたり、恨んだり、存在を否定したり。私はスーパーポジティブと呼ばれているくらいお気楽な性格なので、それほどまでネガティブな思考の人達の考えに寄り添うことは、できそうにありません。ただ、生きづらさを引きづりながら日々を懸命に生きている人がいる、という事実を深あああく思い知ったというだけでも、この本との出会いは貴重であったと、感謝しています。
境界例パーソナリティやアダルトチルドレンなど、不幸な生い立ちによって生きづらさを抱えている人が周りにいたら、この本は彼らの胸の内を知るための貴重な指南書になることでしょう。難しい内容ではありません。読みやすい本です。