いつも硬派な筆が冴える真山仁氏。今回挑まれたのは、医療とサスペンスが融合した、実に興味深くてドキドキもある、贅沢な作品。ご自身、かなりiPS細胞について勉強されたのだろうなあと、ご苦労に頭が下がります。
「神域」というタイトルは、真山氏の信念が投影されているのでしょうか。脳機能を蘇らせる奇跡の細胞。そんなものが本当に出来たら、人間の寿命はどこまで伸びるのでしょう。不老不死が実現しかねない話です。
アルツハイマー病に罹患したくはないと、おそらく全ての人が望んでいることは、想像に難くないですが、一方で、呆けてしまうというのは神の配剤と考えられなくもない、と、私の読書経験から思い至ります。
脳機能の研究は、第二次世界大戦中のホロスコープと重なり、真っ黒な歴史がうようよ出てくる分野です。
でも、その負の歴史によって、精神病の研究が進み、脳内物質の分泌異常により狂気やエクスタシーが生まれることも突き止められた訳です。現代医療で、投薬により精神科の患者が座敷牢から普通の生活に戻れたことは、やはり画期的と言えるでしょう。
だからと言って、脳の人体実験(治験というべき?)は、真山氏のつけたタイトル「神域」を侵す、踏み込んではいけない領域であることは、間違いありません。
自分自身の老後や、もう間近に迫っている母の介護、などなど、後回しにできない問題に《正面から向き合え》と突き付けてくるような、深いテーマの小説でした。
基本的にはエンタメです。私の考えすぎで、重く捉えているだけ? でも、帯の「衝撃の問題作!」の文字に偽りはないと思いますよ。