ドイツは都か住みよいか。

中公新書「ウィーン愛憎」を加筆・改題した本書

もし、全ての条件がクリアされたら、ドイツと日本のどちらに住みたいか、と訊かれることがあります。よおく考えた結果、私はドイツに軍配をあげます。日本の快適で便利なところは、称賛に値しますが、どうもヌルマ湯に浸かっているようで、精神的にどんどんだらしなくなっていくような気がするのです。基本、自分に甘いので、周りから鍛えてもらわないと、怠け者になってしまう「ダメ人間」です。

日本ではお客様は神様として扱ってもらえます。一部のクレーマーは最近ではお客様としては処遇されないシステムが構築されつつあるようですが、それにしても、大抵の要求は通ってしまう、お客様パラダイス・ニッポンです。

ドイツでは、お客様は König ケーニッヒ=王様、として大事にされるかと思いきや、店員は Kaiser カイザー=皇帝。つまりお客より店員の方が強いのです。

ドイツには閉店法という法律があり、顧客の利便性より、店員として働く労働者の「休む権利」を守る方を優先します。閉店時間はきちんと決まっているし、日曜祝日はほとんど全ての店舗はお休みです。コンビニなんて発想はありません。

中島先生のご著書には、頑固・高慢・偏見に凝り固まったヨーロッパ人と戦う姿が描かれていますが、中島先生には類まれなる語学力と、相手の言うことに理論武装して立ち向かえる、聡明な理論構築力があったからこそ、できたのでしょう。

日本人学校でのミセス・ケレハーとの確執や、銀行窓口での理不尽な扱いに対する冷静な対応、家主との闘い、などなど。読むとその大変さを想像し、感服しながら笑ってしまう、興味深いエピソード満載です。

私もドイツで戦い、刀折れ矢つきるまでに降参してしまった弱虫でしたが、それなりに頑張りました。その頑張りを少しでも誰かに褒めてほしい、エラかったねえと頭を撫でてほしさに、この本を周りの人に薦めています。

これほどの戦いぶりではなかったけれど、それなりに苦労しました、ということを訴えるには、とても説得力のある本です。

海外在住経験のある人も、日本がいかに恵まれた国か実感したい方にも、どちらにも薦められる本です。残念ながら絶版だそうなので、図書館か古書店でお探しください。