真保裕一のハードボイルド小説「ボーダーライン」

ボーダーライン 真保裕一著

握手をするように銃を放つ”サニー”。ロサンゼルスを舞台に描かれた、ハードボイルドの探偵小説。真保裕一氏はこの小説の語り口を翻訳モノのそれに、わざと似せて書いているフシがあります。

主人公・永岡修は「おさむ」という名前から当地で「サム」の愛称で呼ばれている私立探偵。彼の元に1枚の日本人の写真がもたらされ、この”男”を探すよう依頼されます。サムの上司・関口やサムの通うスポーツジムのインストラクター・マーヴィンなど、それぞれ魅力的な登場人物が伏線となり、重層な彩を与えています。

あまり書くとネタバレになるので、この辺でやめておきますが、吉川栄治文学新人賞をとった「ホワイトアウト」より、私はこのボーダーラインの方がずっと好きです。ホワイトアウトは織田裕二主演で映画にもなりましたが、このボーダーラインを映像化するのは、多分無理でしょう。

エンターテインメントとひとくくりにするには、かなり重いテーマが隠れている、味わい深い小説。お気楽な気分で読むと、不意打ちのようなスパンクをくらいます。できれば、ゆっくりバーボンでも飲みながら、アメリカンドリームのその後をお楽しみください。真保氏作品群の中ではピカイチです。