森鴎外の息子の話

類 朝井まかて著 表紙絵は森類作

森鴎外と言えば、ドイツに非常に関係の深い方。

私は留学中、森鴎外のお孫さんと同じクラスでドイツ語を習ったことがあります。ゲーテインスティテュートの日本人留学生の中では一際目立った存在で、羊の群れの中にいきなりサラブレッドが迷い込んできたような、独特の異彩を放っていました。

この「類」という物語から察すると、類のお嬢様だったのかな、と思われます。

皆がスニーカーでえっちらおっちら登っていた長くて急な通学路を、タクシーで颯爽と追い越して行き、学校へ横付けされておりる彼女の足元は、レッドカーペットを歩くようなハイヒールでした。

一時が万事その調子で、年齢や社会的ポジションを考慮すれば、当たり前だったのかもしれませんが、ゲーテの日本人留学生一同にとっては、鼻もちならない存在。くっきりはっきり「浮いて」いました。

父が偉大すぎると、子どもたちは普通とは違う幸福や不幸に見舞われることを、この小説は赤裸々に物語っています。でも富裕層と貧困層の圧倒的な格差を思うと、お金持ちの持つ悩みは、やはり贅沢なものと思えてしまいます。

「類」を読みながら、一番感情移入できたのは、妻の美穂でした。いつまでもおぼっちゃま気質の抜けない主人公には、業を煮やしてしまうくだりがいくつもあり、少し引いて読まないと、私のような小市民は冷静ではいられなくなってくるのです。

もくもくと働いてこつこつ貯める。そんな価値観しか持たない私には、セレブ層の方を理解する一助になる1冊と言えます。ただし、あのお孫さんに再会できたとしても、今度は彼女と打ち解けることができるかどうか、自信はありません。

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