邱飯店のメニューを読む

邱飯店のメニュー 邱永漢著

中華レストランのメニューではありません。本のタイトルです。確かに美味しい食べ物の話満載です。でも人物評や経済ネタもある、楽しいエッセイです。

台湾人(あえて中国人とは言いません)でありながら、これだけ流暢に日本語で本を何冊も書き、直木賞も受賞され、学歴は東京大学経済学部卒とくれば、私なんぞ、ただ「ははーっ」とひれ伏すしかありません。

大正のお生まれなので、台湾が日本の統治下であったことも理由のひとつでしょうが、日本に帰化され、東京で死去されているので、日本人以上に日本人だったかに見えます。

この本の中で邱氏がご自宅に客人をお招きし、饗応するメニューは「ザ・中華」。それも、半端ないボリュームです。十数種類の料理、しかもよく日本の料亭で出てくるお上品な盛り付けでなく、たっぷりの量で、調理方法も本格的。

お金はとらず、その代わり食べている間、仕事の話はしない、中座も禁止、電話に出るのもだめ。洋の東西の無駄話にふけり、料理をひたすら楽しむ。というのが邱飯店のルールで、イチゲンさんはおことわりです。

こんな素敵なお食事会なら、ぜひ臨席したかったと、私の胃袋は高鳴ります。学生時代は男子学生が呆れるくらいの大食いでオオザケノミでしたから。今はさすがに暴飲暴食は慎んでいますが、食事に招かれて食べ物を残すことには、抵抗があり、おかげでちっとも皮下脂肪が減りません。

邱氏の健啖ぶりは推して知るべしで、計らずも糖尿病に悩んでおられ、それに関するご著書も多かったとか。お金儲けの才能はさらに長けていらしたようで、「金儲けの神様」の異名も持っておられたようです。

台湾人の友人としばらく一緒に居て感じましたが、中国人には「薬膳」の知識が普通に浸透しています。日本人はやたら薬やサプリメントばかり摂りますが、科学の歴史はたかだか数百年。一方、中国は優に4000年以上の長い歴史。私は断然、漢方薬に軍配をあげます。ちなみにドイツでは、薬より、まずハーブティーに頼るのですよ。これも理にかなっていると思います。

台湾を旅行した時、太った人には全く出会いませんでした。食事が健全なのですね。邱永漢さんの全身写真が見つからないので、推測ですが、痩せてはいらっしゃらなかったみたいです。

何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。普段の粗食に耐えてこそ、たまに出会う美食がより幸せに感じられるのだと、肝に銘じます。やせ我慢ではありませんよ。なにしろ私、小太りオバサンですから。