マルチ商法の実態をリアルに描いた「マルチの子」西尾潤

久しぶりにかかってきた友人からの電話の用件はマルチか宗教の勧誘というのは、私自身も時々ありました。

はっきり記憶しているマルチ関連事件は、ベルギーダイヤモンドの豊田商事。昭和60年にテレビカメラの前で代表者が刺殺されたのが衝撃的でしたね。

アムウェイには数人に誘われましたし、サンフラワーにはドイツ語学校で知り合った友人がはまってしまい、冷たいようですが縁を切りました。

数学で考えると、マルチ商法の限界が一目瞭然です。2の27乗は134,217,728。2人ずつ会員を増やすだけの単純な計算でも27段階目で日本の人口を超えてしまうのです。ハードとソフトを商材に持つアムウェイなら、ソフトで繋ぐことも可能ですが、耐久品のみしかなければ、必ず行き詰まるのがねずみ講でありマルチ・レベル・マーケティングです。

サンフラワーの説明会に無理やり連れて行かれた時につぶさに観察しましたが、組織だった勧誘方法が確立されており、心理学や催眠療法などが取り入れられていました。腕組みをすると、それは拒絶を意味する仕草なので解くように言われたり、否定的な発言をしかけると会場から出されたり、群集心理を煽るように仕向ける細工がいろいろあるのです。

「マルチの子」は実体験をもとに書かれた小説で、内容が恐ろしいほどリアルです。人を応援することが自分の幸せにもなる。確かにそれは魅力的です。でもそれが、手下の売上マージンの何割かが自分の懐に入るという、いわゆる典型的なMLMならば、どこかで破綻がきます。

アムウェイをやっていた人は常に「洗剤いらんか?」と周囲に訊ねてばかりで、友人を失くしていました。生命保険の営業にも、似たような傾向がありましたね。

ネズミ算式の営業方式は、トップグループにいる一部の人間のみが儲かるシステムで、末端は搾取されるのみ。夢を見させる甘言に乗ってはいけません。そしてこのトップグループにいる連中は、性懲りもなく新たな商材をみつけては、新たなマルチを社会経験の乏しい若手に紹介し、この小説「マルチの子」のような被害者(しかも加害者の汚名を着せられる)をどんどん産み出していくのです。

コロナ不況で経済が停滞しており、ちょっとでも小遣い稼ぎを、という気持ちに傾くのは分かります。でも、私ははっきりとマルチは否定します。世の中に楽して儲かる話はありません。一人だけが1億円儲かる話は確かにありえますが、全員が100万円手に入るという話は《マヤカシ》です。

ぜひこの本を読んで、世の中にウマイ話はない! ことをしっかり頭に叩き込んでください。