村上春樹氏ははたしてグルメか?

村上T 村上春樹著

「村上T」僕の愛したTシャツたち。写真がふんだんにあり、洒脱な文章で、気楽にすぐ読めてしまう本です。マラソンに出場した際の記念Tシャツや、氏の本が翻訳された時のPRグッズとして作られたもの、お好きなレコードやウイスキーのTシャツなど、大量のコレクションの一部が掲載されています。

旅行でアメリカに行くと、まずハンバーガーを食べる。という一文で、村上氏はいわゆるグルメとは違うおひとなのかなあと、勝手にイメージしてしまいました。氏の小説にも食事のシーンや食べ物の表記がありますが、私の好きな数々の女性作家のフードに関する文章に比べると、それほど食欲がそそられるという感じではありません。

食通ではない、と私が勝手に決定したのは、村上氏がアイスランドをお気に入りという嗜好からです。

アイスランドは極北と言っていいほどの北欧の小国です。私には留学時代、アイスランド人と知り合う機会があり、彼女の家に泊めてもらって、1週間、かの地に滞在したこともあります。

自然豊かないい国ですが、食べ物については失礼ながら貧弱なところでした。人口の10倍羊がいるという羊大国(ニュージーランドなんかもそうですね)で、お肉と言えば、ラムかマトン。他にタンパク源はサーモンがおいしかったかな。

なにしろ日照が足りないので、野菜はほぼ全てハウス栽培で、値段が高くお味はそれほど。。。またアルコール類がとても高く、ドイツビールとワインをお土産に持っていったら、ものすごく喜ばれました。

サメのお肉も少し食べさせてもらいましたが、アンモニア臭がきつくて、一口齧っただけでギブアップ。とにかく食べ物に関して、アイスランドでは良い思い出があまりなく、再訪したいという気持ちは起こらなかったですね。

アイスランド語はゲルマン語の発展した形というのが、私の友人の説明でした。英語はネイティブと言っても過言ではないくらい流暢だったし、ドイツ語も私よりずっと上手く、彼女に言わせれば「ちょっと勉強すれば、アイスランド人にとってドイツ語はすぐわかる」のだとか。とてもうらやましい話でした。

アイスランドのハイウェイでは、羊が現れても急ブレーキはかけない。羊の命が軽視されている印象でした。びっくりしたのは、事故車両をそのまま貼り付けた看板というか立体ポスターというか。スピード違反に対する注意喚起だと友人は言っていましたが、大胆なビジュアルには度肝を抜かれました。

自宅に泊めてもらったので、生活ぶりをつぶさに見られたのは良かったですね。お湯の蛇口から出てくるのが「温泉のお湯」というのも驚きでした。お風呂は毎日、温泉。食器を洗うのも温泉のお湯。というのはうらやましかったですが、夏は白夜、冬は太陽を拝めない土地柄ですから、旅行で一度行けば十分というのが偽らざる感想です。

友人の仕事の都合で1日だけフリーの日があったのですが、その日、町中を散策して迷子になると、ごく普通に「誰でも」英語で助けてくれたのも印象的でした。観光立国なので、国民全てが流暢に英語を話すのですね。夏は学校が休みになり、校舎は宿泊施設に転用されるというのも興味深かったです。

Tシャツの話から、アイスランドに跳んでしまいました。村上Tコレクションの中で大笑いしたのが、スペイン語のTシャツ。トランプ大統領の横顔がプリントされており、言葉の意味は「ドナルドはアホだ」だそうです。もしトランプに会うチャンスがあれば、私も”Du bist dumm”ドゥー ビスト ドゥム。(ドイツ語で「君はバカだ」)と言ってやりたいです。トランプは確かドイツ系移民ですが、英語以外の言葉に興味の片りんもなさそうですから。