「汝、星のごとく」2023・本屋大賞受賞作は王道の恋愛小説です

いつだったか、小説のうまい書き方は、主人公にどんどん不幸な目を遭わせることだ、という、いささか乱暴なアドバイスを読んだことがあります。

青埜櫂と井上暁海。二人の主人公が織りなす物語は、複雑なバックグラウンドの横槍で、韓流ドラマのようなてんこ盛りのラブストーリーに仕上がっています。いや、表現がかなり陳腐で軽率でした<m(__)m> 実に深い小説です。さすが本屋大賞受賞作品。滂沱の涙を流しながら読了しました。

人の数だけ真実があり、事実は無言で横たわっている。あるヒトにとってはピンチの状況も、別の誰かにとってはチャンスだったり。世の中の事象は複雑に絡まっており、いつも一筋縄ではいきません。

カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作の是枝裕和監督作品「怪物」を観てから間をおかずに「汝、星のごとく」を読んだので、いろんな登場人物の思惑やら誤解やらが余計に気になり、櫂と暁海への感情移入が強くなり過ぎた帰来もあります。

「怪物」の安藤サクラさん演じるシングルマザー、永山瑛太さんの保利先生。黒川想矢さんの麦野湊と柊木陽太さんの星川依里、この2人の子役の演技は圧巻。田中裕子さんの校長先生ぶりも味があり、坂本龍一さんのピアノのメロディーでノックアウトを喰らいました。

それぞれのキャストから見た真実は、ええ~?!っとなるくらいの差異があり、人間の解釈の仕方の勝手さというか怖さというかを思い知らせてくれます。

映画は視覚と聴覚を一気に刺激する娯楽なので、その感覚が身体に残りやすい。その残滓がたっぷりの状態で凪良ゆうさんの世界に潜り込んだので、すっかり溺れてしまいました。

この作品が直木賞を獲らなかったのは、審査員の嫉妬じゃないですかね。うますぎます。

読む時はバスタオルをご準備ください。