脳科学者にして医学博士・認知科学者の中野信子氏。多数のご著書はいずれも分かりやすく、確実にヒットを飛ばしています。
「シャーデンフロイデ」はドイツ語です。日本語らしく訳すと、”他人の不幸は蜜の味”がぴったり。シャーデ Schade は、何か残念なことがあった時によく言う感情表現(例えば、「今日飲みに行かない?」 「シャーデ、今夜はもう約束があるの」のように使います)。フロイデ Freude は、有名な第九の冒頭の歌詞ですね。喜びという意味です。
その「シャーデンフロイデ」も中野氏の著作のひとつ。他人をひきずりおろした時に生まれる快感、として、ネガティブな感情を懇切丁寧に解説しています。
「サイコパス」の冒頭には《ありえないようなウソをつき、常人には考えられない不正を働いても、平然としている。ウソが完全に暴かれ、衆目に晒されても、全く恥じるそぶりさえ見せず、堂々としている。・・・外見は魅力的で社交的。トークやプレゼンテーションも立て板に水で、抜群に面白い・・・》とあり、私は東京都知事の顔を思い浮かべずにはいられなかったのでした。
サイコパスは心拍数が低く、モラルに反する行動をとっても、ドキドキしないため、犯罪に対する抑止力がないのだとか。良心というブレーキがない、とも書かれています。
この本には、サイコパスの見分け方は書かれていて、その治療法には言及していますが、一般人(?)がサイコパスをどう回避すべきかは書かれていません。社会的地位が高い人に多いらしいので、相手の思考パターンを把握して、うまく対処せよ、ということなのでしょう。
そして「空気を読む脳」。冒頭にルース・ベネディクトの「菊と刀」が紹介されています。この本も戦時中にアメリカ人が日本人を徹底分析した名著です。
日本人の愛する考え方《”醜く”勝ち上がるよりも、”美しく”負けるほうに価値がある》に触れ、カミカゼ遺伝子と表現しているのは、中野氏もベネディクト氏も同様です。
他には、ギャンブルにはまる心理や、愛情ホルモンの功罪、「酔った勢いで、つい」の理由、「褒める」は危険についての解析、創造性を上げたい時には報酬を与えてはいけない、男性と女性の脳の構造の違い、インポスター症候群、などなど。興味深い話が満載です。
日本社会の教育は「良き歯車をつくる」ものであることを踏まえ、現代社会の息苦しさも、この本をよく読みこむことで、うまく乗り切れるのではないかと思います。
脳内物質の作用など、脳科学者らしい理路整然とした文章で、頭がクリアになります。「目から鱗」は使い古された表現ですが、まさにその言葉がぴったり。日本人の脳の特性を知るために、一度は目を通していただきたい講談社+α新書です。