ノンフィクションの名手・沢木耕太郎氏による2作

講談社ノンフィクション賞受賞作の「凍」。壮絶なアルピニストのヒマラヤに挑んだ記録です。後に手足の指・計10本を切り落とすという凍傷を負いながらも、酸素ボンベなしで8000m級の山に挑むという気概は、軟弱者の私には理解不能でした。

ドキュメンタリーを書かせたら超一級の沢木氏の筆だからこそ、怖がりの私でもドキドキわくわくしながら完読できたのでしょう。

山登りの好きな方にとって《山野井泰史》さんは神様のような存在なのでしょうか。全く存じ上げない方でしたが、ご自分のお好きなことに人生の全てを投入されているお姿は、羨ましいというより畏れ多いという感じでした。

一方「テロルの決算」は大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。日本社会党委員長・浅沼稲次郎を暗殺した山口二矢に焦点を当て、二矢の短い生涯を浅沼の存在感と見事にシンクロさせて描いた逸品です。

公衆の面前での刺殺事件で、決定的瞬間をカメラに収めた毎日新聞社の長尾靖氏が、日本人初のピューリッツァー賞を受賞したという、なんというか、不謹慎かもしれませんが《ドラマティックな》出来事が続きました。

それらの派手な事実を淡々と描く沢木氏の筆力は、読者の想像力をかえって増幅させる効果があるようで、殺人者である二矢に、私は奇妙な魅力を感じております。

この事件を通じて、VIPの警護方法が変わったとか、銃刀法が改正され、子供が鉛筆をナイフで削れなくなってしまったとか、様々な影響もあったようですね。

話が脱線しました。沢木耕太郎氏のノンフィクション・マジック。ぜひご堪能ください。未知の世界が開けますよ。