ローテンブルクとエレベーター

市庁舎の上から見たローテンブルクの街並み

日本人旅行者がドイツに行くと、必ずといっていいほど訪れる街が、ここローテンブルク。城壁に囲まれた一帯が全て世界遺産という、ある意味ドイツらしい街です。

在独中はこの街に行く機会がありませんでしたが、ドイツ語講師を始めてから生徒の方と旅行した際、ローテンブルク訪問をプランの中に組み込みました。治安の良いこじんまりした街なので、生徒さんを1日放置プレイしても大丈夫、と見越したからです。習ったドイツ語を存分に発揮して有意義な一日にしてください、と言って送りだしました。

日本はもちろん、世界中から観光客がやってくる街なので、英語どころか日本語も通じるくらい俗化されていましたが、見どころはたくさんありました。この写真の風景を撮るためには、健康体でも怯むような階段や梯子を登らなければなりませんでしたが。

そう、タイトルに「エレベーター」という言葉を入れましたが、世界遺産の領域内ではエレベーターの設置が”禁止”されているというのです。

私たちの泊まったホテルも城壁内だったため、エレベーターがついていませんでした。スーツケースがとても重かったため、階段を二人がかりで運びましたが、部屋に着いてしばらくへたりこんだ記憶があります。

名古屋城にエレベーターをつけるかの是非が問われた時、私はローテンブルクのことを思い出していました。世界遺産の中にはエレベーターが設置できない。このルールはなぜ存在するのか。

ひるがえって、在独中、友人のアパートのエレベーターは稼働しておらず、日本式の6階に住んでいた友人の足腰は、逞しく鍛えられていました。聞けば、エレベーターの修理に大金がかかるため、直すと家賃が上がるのだとか。現状の家賃を維持したいという大多数の住人の意見が勝ち、友人はエレベーターがあるにもかかわらず、不便な階段利用を強いられていたのです。

公共インフラにはエレベーターが設置されてしかるべきでしょう。でもそれ以外はどうあるべきなのでしょうか? 小山内美智子さんが盛んに運動をされていましたが、私には答えが見出せません。

グランドキャニオンにセスナで行った時も、衝撃的な説明がありました。人の命よりも景観を重視する、と。だから、かの地には柵がありません。

自分の身は自分で守る。当たり前のことですが、日本では何かと言うと、お上に言いつけて見苦しいフェンスや立て看板だらけになるという傾向があるように思えます。

父が車椅子か寝たきりの状態で病院から戻ってくる予定です。だからといって、エレベーターを我が家に設置するつもりはありません。面倒かもしれませんが、困った時はヘルパーに頼るという姿勢で、なんとか対処していこうと考えています。

昔、利用した駅には、エレベーターもエスカレーターもなく、重い荷物を持って途方に暮れていると、親切な方が手伝ってくださった記憶があります。たまたまラッキーだったのかもしれませんが、私は「世の中、捨てたもんじゃない」と思いたい。人間同士、助け、助けられ、支え合って生きていくのが「普通」であってほしいですね。

コロナで他人との距離をとりたくなる今、接触が敬遠されます。それでも人の優しさを信じ、自分自身も人に親切でありたい。エレベーターのことを考えながら、道徳心に改めて目覚めたのでした。まとまりがなくて、ごめんなさい。