気候変動を阻止するための指南書、人新世の「資本論」

《世界で最も裕福な資本家26人は、貧困層38億人の総資産と同額の富を独占している》

この事実を知ると、資本主義ははたして正しい経済政策なのかと、疑問視したくなります。社会主義政策はソ連の崩壊により、人間の心理を解していない間違った政策と評価されていますが、マルクスの資本論は本来は全く違う社会を描いていたようです。

《邪悪な心が権力を握れば、共産主義はますます専制的になり、怖いシステムになる》

共産主義と社会主義の違いをきちんと定義できないので、おおざっぱな言い方になりますが、要は権力を握る人物(独裁者?)の器次第ということですよね。

グレタ・トゥーンベリさんの「あなたたちが科学に耳を傾けないのは、これまでの暮らし方を続けられる解決策しか興味がないからです。そんな答えはもうありません。あなたたち大人が、まだ間に合う時に行動しなかったからです」権力者や政治家、大企業の経営者がこの言葉に真摯に耳を傾けなければ、気候変動はますます悪化の一途をたどるでしょう。

でも残念ながら、冒頭の26人を含み、最も影響力のある人達は「大洪水よ、我が亡き後に来たれ!」と考えているか、あるいは自分の財産に被害がなければ、線状降水帯がどこに出現しようが知ったことじゃない、と他人事のように思っているかのどちらかのようです。

今の世の中のほとんどの人は、現状に満足していると無理やり「思い込まされている」ような気がしてしかたありません。私たちは資本主義に取り込まれ、生き物として無力になっています。自分の手で動物を飼育し、魚を釣り、それらを捌くという能力を持っていません。ほとんどの人はスーパーできれいにパック詰めされた食材を口にしています。

長時間労働は、本来必要ではないものの過剰生産につながり、環境を破壊し、また生活からは家事や修理のための余裕を奪い、過剰消費へと導きます。

私の住む町には多くの田畑や林がありましたが、それらはことごとく伐採され、埋め立てられ、宅地になりました。あちこちに空き家があるにもかかわらず、新築の家が次々に”新しい宅地に”建てられ、若い世代が入居しています。空き家はそのまま放置されており、小心者の私は「もったいない・・・」とため息をつくばかりです。

伐採された樹木や元々あった田畑の農作物は、光合成をしてCO2削減に貢献してくれていた筈なのに。微々たるものかもしれませんが、緑地が日本全国、あるいは世界各地で減っている現状に、私の小さな胸は痛むのです。

斎藤幸平さんのこの著書は、マルクスがかつて残していながら、後世に正しく伝わっていなかった貴重な思想を甦らせ、環境危機の救世主となる、ミラクルな1冊です。

資本主義を捨てた文明に繁栄はあるのか? 

あります。明解な論理で豊かな未来社会への道筋を具体的に描いた《超良書》です。

みんなで生産力至上主義から決別しましょう。