女優であるより自分であることを貫いた、その潔い生き方に拍手喝采。
美貌の主が、類まれなる文才を発揮し、ご自分の半生を赤裸々に描いた自伝です。
岸惠子さん。
私は生では存じ上げませんが、銭湯の女湯から客が消えるほど、そのラジオドラマにリスナーが魅了された「君の名は」。そしてそれをもとに大流行した「真知子巻き」というストールの巻き方など、女優として第一線でご活躍されたにもかかわらず、フランス人医師・映画監督との恋に落ち、全てを投げうって国際結婚。
しかも当時は個人的な海外旅行は禁止で、円の持ち出しもできなかったという悪条件下で、熱烈に愛されての日本脱出。
なんともまあ、ドラマティックな人生です。でもこの自伝には、悲壮感を与える表現や、同情心を誘うような殺し文句はなく、あくまでも淡々と事実が語られるので、かえってリアルにその過酷な体験が伝わってきます。
出てくる交友関係が、これまた華麗で、超有名人の心温まるエピソードは、岸惠子さんならではのネタといえるでしょう。
「自慢話」を読まされるのでは、と危惧する気持ちは理解できますが、この自伝の著者は、そんな小さな器の人物ではもちろんなくて、スケールの大きな、正真正銘のコスモポリタンです。
大胆な行動力も、ご本人にとっては全く当たり前のことで、時に母親としての娘への配慮などで猛省している姿が、ああ、フツーの方で良かった、と、共感も呼びます。
卵を割らなければ、オムレツは食べられない。
そうなんです。この、夫イヴ・シァンピからかけられた言葉が、彼女のタームポイント毎に現れ、またステップアップして行きます。妬ましいほどの文章表現力に、ため息がこぼれました。
林真理子さんのユーチューブでのご推薦。いつも素敵な本を紹介してくださる林さんにも感謝です。日大の理事長、重責ですが、きっと素晴らしい成果をあげられることと信じております。
読んでいただいている皆様に、心より、暑中お見舞い申し上げます。