下がり眉の作る料理がたまりません。みをつくし料理帖

髙田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズ全10巻

神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕をふるう澪の料理の描写が、読者に生唾を何度も飲みこませる、時代小説の絶品ならぬ舌品です。 

かつて、民放では北川景子さんが主演で、ドラマになりましたが、あのキリリとした美人顔の女優さんでは、「下がり眉」のイメージがわかず、残念ながら感情移入ができませんでした。ところが、NHKがやってくれましたね。昭和顔女優という触れ込みで、大河ドラマ「西郷どん」に抜擢されていた黒木華さんが、包丁捌きもあざやかに、見事に「澪」を演じてくださいました。いえいえ、決して不美人という形容ではありませんよ。お美しい女優さんでいらっしゃいます。

なんとも食欲をそそられる料理の描写は、グルメでなくても垂涎ものですが、澪と小松原さまとの間の恋の行方も、また、読者や視聴者をやきもきさせます。森山未來の「小松原さま」もまた、絶妙なセリフまわしで、思わず”萌え~”ともだえてしまいそうになりました。

文庫本で10冊というのは、絶妙のプライス&ボリューム。新刊が出るのを心待ちにしていた頃は、はらはらドキドキの展開に、「早く出てこい!」とじれていましたが、揃ってみると、読み返すのも又、味わい深いシリーズです。

NHKドラマは、まだ話半ばのようなので、続編が期待されます。願わくば、同じキャスティングで続けていただきたいものです。

お料理の映像は罪作りですね。なまじカメラの向こうでは、本物の食べ物が調理されているのですから。視覚情報は脳への刺激がストレートです。ところが、文章による料理の想像は、材料も器も、読者それぞれのイマジネーション力次第。つる家は読者の数だけ存在します。

ああ、とろとろ茶碗蒸しが食べたくてたまらなくなってきました。今宵は少し胃を休ませて、優しい卵料理とまいりましょうか。クリスマスに忘年会と、アルコール漬けの身体を、少々いたわってあげないと、また新年会が待っています。

波瀾万丈のストーリー展開も、また魅力的なシリーズです。未読の方は、「八朔の雪」から、ぜひ楽しんで、タイムスリップしてください。