こんな警視長が実在すれば・・・隠蔽捜査、今野敏

隠蔽捜査シリーズ 今野敏著 

竜崎伸也警察庁長官官房。彼の朴念仁ぶりには〈変人〉という称号が与えられているのだが、その実態は? たてまえがなく本音しか言わないし、考えもしない。とかく世間体を気にする警察組織の中にあって、常に正直を旨に、真正面からことにあたる。こんな警察官が上層部に本当に実在したら、警察組織はもっと国民に愛される存在になっているでしょう。

私の弟は素直過ぎるというか、竜崎のような警察官僚がいるものと信じ、「日本の警察は世界一」と豪語しておりました。ところが、宮本政於氏の「お役所の掟」を私がすすめて読んだばっかりに、官僚の世界の情けない実態を知ってしまい、すっかりお役所嫌いになってしまったのでした。

オハナシの世界と現実が違うのは、残念ながら普通です。でも、だからこそ、「こんなスーパーヒーローがいて、世の中の悪をバッタバッタとなぎ倒してくれたら」と思わずにはいられなくなる。せめて空想の世界では、「正義が勝つ」が常識であってほしい。

今野敏氏の軽快な筆は、竜崎警視長を上下関係の厳しい警察組織の中で、身分にとらわれない型破りなキャラクターとして、見事に爽快に描いています。

警察小説の歴史を変えたと言わしめる第1作は栄えある吉川栄治文学新人賞受賞作。第2作は山本周五郎賞・日本推理作家協会賞にも選ばれている、堂々の人気シリーズです。

私が個人的に好きなのは第3作の「疑心」。この堅物の正義感がもし恋をしたら、という萌え~の設定に、ワクワクそわそわニヤニヤしながら読みました。こんな恋愛にウブな男性が、優秀で人格者な自分の上司だったら、と考えると、妄想が止まらなくなりますね。まあ、畠山美奈子という飛び切り美しい女性キャリアという設定があればこそなので、自分には間違ってもありえないケースであることは認めざるをえませんが。

このシリーズは、配役がいろいろ変わった形で、テレビドラマにもなっており、伊丹役の柳葉敏郎さんが、いい味出していたのを覚えています。

桜をみる会の首相答弁の歯切れの悪さや、コロナウィルスの暗いニュースにうんざりしている方。もし「隠蔽捜査」シリーズが未読なら、ぜひ手に取ってみてください。切れのいい刀で、うっとうしい世間のしがらみを、一刀両断するような快感を味わえます。シリーズは現在⑧が登場し、間に3.5と5.5というスピンオフ作品もあるので、長く楽しめる点でもおすすめです。