「まきの」の中華そばが食べたい! 灯台からの響き

2010年秋に紫綬褒章、2020年春に旭日小綬章を受章されている国民作家・宮本輝先生。先生ご自身が大変なグルメでいらっしゃるのか、作品には舌なめずりしたくなる食べ物がよく登場します。

材料を丁寧に洗い、慎重に灰汁をとり、沸騰させずに弱火でコトコト数時間煮る・・・など。一般家庭ではなかなかできないプロの仕事で、材料も吟味されていて、自分では作れないけど、こんな風に丁寧に作っているなら、わざわざ遠方へ出かけてでも賞味してみたい、と思わせます。

灯台からの響き 宮本輝著

「灯台からの響き」というタイトルにふさわしく、日本中にある主な灯台が出てきて、興をそそります。でも、灯台以上に魅力的だったのが、主人公・牧野康平が作る中華そば。奇をてらったものは入っていませんが、

皮つきのニンニク3片、たまねぎ5個、ざく切りキャベツ2個、長ネギ3本、にんじん5本、生姜2個と豚骨を入れた寸胴鍋に水を満たし、火をつける

そして

別の寸胴鍋に丸鶏、鶏ガラ、もみじ(ニワトリの爪の付いている足先)を入れる

さらに

もうひとつの寸胴鍋の水には、既に煮干しと鯖節と利尻昆布を浸してある。3時間たったら昆布だけを先に取り出して、弱火で灰汁を取る

・・・

なんともおいしそうではありませんか。

その上、魅力的な登場人物が、《殺人のないミステリー》よろしく複雑に絡み合い、最後まで飽きずに読ませます。亡き妻の知られざる過去を追い、灯台を巡る旅に出る主人公。旅情とグルメのダブルパンチが心地よい、宮本ワールド全開の最新作。既にファンの方も、まだ未体験の方にも、オススメの良品です。