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音楽家が主人公の小説に関する私見「四重奏」逸木裕

ドイツ語のエッセイ集「Eine kleine Kaffeepause」はオーケストラでチェロを弾いている日本好きの青年(当時)の名作。チェロの素晴らしさを大いに謳っています。

私の読書量では、大して網羅できていないということなのでしょうが、今までに読んだ小説の中で、楽器の演奏家が主人公の作品は、なぜか全てチェロ弾きだということに気付きました。

・ハルモニア 篠田節子先生のファンタジックホラーとでもいうべき長編。テレビドラマにもなりました。

・ラブカは静かに弓を持つ 安壇美緒さんの著作権問題に焦点が当たった本屋大賞候補作

・四重奏 逸木 裕さんの意欲作。著者ご自身も楽器を演奏されるのか、よほどクラシック音楽がお好きなのか、それとも作品執筆に際してかなり研究されたのか。心理戦と哲学的な考察も混じり合い、とても読み応えがありました。

ドイツ留学時代に仲良くなった台湾人の友人もチェロ奏者ですねえ。彼女が自分の身体とほぼ同じ大きさの楽器ケースを持ち歩いているのを見るたびに、なんとも不憫な気持ちになったことを覚えています。

彼女はかなりのお嬢様なのですが、ドイツ国内で長距離を移動するのに電車をかたくなに選んでいました。飛び恥という言葉の無かった当時でしたが、理由を聞くと、シートを2席取る必要があるからと知り、大いに納得。繊細な弦楽器でしかもデカイ!から、いくらお金持ちの子女でも、その辺りは躊躇したようです。

現在のKONISHIKIさん。力士当時「小錦」関だった頃、身体が大きすぎて、ファーストクラスではなく、エコノミーの席を2つ取っていたという話を披露してくださったのを聞きました。ユーモラスな口調で、食事は一人分だったこと、マイレージは2倍にしてもらえなかったこと、そして究極は「通路を挟んだ2つの席」を予約されていたこと。

すみません。思いっきりチェロから逸脱しました。でも、この話、好きなんです。

音楽を言葉だけで表現する、小説家という魔術師。「四重奏」は久々にストーリーに耽溺した逸品でした。オススメです。

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